新しい学習指導要領に基づく学校教育が、小学校で2020年の4月から始まりました。次いで中学校が2021年度、高等学校が2022年度に始まります。
小学校では、外国語(『英語』)の教科化やプログラミング教育の必修化、高等学校では『公共』『歴史総合』『地理総合』『探究』『情報』といった新しい科目が加わり、報道される機会が多いのですが、今回は、中学校での英語についてみてみたいと思います。
◆四技能五領域の指導へ
中学校での外国語(『英語』)はコミュニケーション能力の基礎を養い、身近な話題について理解し、簡単な情報交換や表現ができる能力を養うのが目的です。
これまでの学習指導要領では、『読むこと』『聞くこと』『書くこと』『話すこと』の四技能の学習内容でしたが、新しい学習指導要領では、『話すこと』が、『話すこと[やり取り]』と『話すこと[発表]』に細分化され、四技能五領域の学習となります。
これまでも、中学校の授業では『話すこと』として、スピーチやプレゼンテーションといった、あらかじめ話す内容を考え、整理し、英文にして、練習して発表するような活動はしばしば行われてきました。今回の新しい学習指導要領の解説では、“互いの考えや気持ちなどを伝え合う対話的な言語活動を一層重視する観点から、『話すこと[やり取り]』の領域を設定”したとあります。確かに、実際のコミュニケーションの場面においては、情報や考えなどを送り手と受け手が即座にやり取りすることが多く、英文を頭の中で組み立てる時間を長く取れません。
学習指導要領の『話すこと[やり取り]』の目標として“関心のある事柄について、簡単な語句や文を用いて即興で伝え合うことができるようにする。”とあり、ニュース記事について自分の意見を発表したり、仲間の意見を聞いたり、その場で質問をしたり、質問に答えたりするような授業が、学校でも増えてくるでしょう。ですから、話す内容をあらかじめ考えおき、練習したり暗記したりした上でならば話せるということでは不十分ということになります。
◆学ぶ語彙数が増え、高等学校で学んできた文法事項の一部を中学校で学ぶことになる
そして、五つの領域別の目標を達成するための言語活動に必要な語数は、1600~1800語程度と定められました。小学校で学習する単語を合わせると2200~2500程度の単語を学ぶことになります。旧学習指導要領では中学校で1200語でしたから、大幅な増加といえます。
また、表現をより適切でより豊かにする目的で、これまでは高等学校の教育課程で学習していた現在完了進行形や仮定法、原形不定詞、直接目的語に節を取る第4文型といった文法事項が中学校に加わります。
◆授業は英語で行うことが基本となる
さらに、“生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする”の一文が入りました。
これは、子どもたちが授業の中で英語に触れる機会を極力確保することと、授業全体を英語を使った“実際のコミュニケーションの場面”とすることとを狙いとしています。“授業は英語で行うことを基本とする”は、子どもたちが日常生活において英語に触れる機会が限られていることを踏まえ、英語による言語活動を行うことを授業の中心にしようとしているのです。
「全て英語で行うようなALL ENGLISHの授業を受けて、我が子が理解できるのか心配だ」との質問を保護者の方から受けることがあります。
既に英語の授業を英語で行っている公立中学校の授業を見学したことがありますが、子どもたちが分かるように、使う語句や文などをより平易なものに言い直したり、繰り返したり具体的な例を挙げたり、聞き取りやすい発音や速度で話しかけるなどの様々な工夫がなされています。学習指導要領にも“生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにする”と書かれており、習ったこともない語彙を用いて指導することはありません。
また、英語の授業時間内は一言も日本語を使用してはならないと学習指導要領に定められているのではありません。授業を英語で行うことを基本としている学校でも、授業の中で時折日本語を交えて実施している学校や1週間のうち一部の授業は日本語も使用している学校もあります。学習指導要領解説にも、“必要に応じて補助的に日本語を用いることも考えられる”と書かれていますので、必ずしも「ALL ENGLISH」の授業とはならないようです。